おむつの小説

コラボ小説、爽快に生きよう青空の下で…第6話
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突然の美咲さんの闖入に驚いていたのはぼくたち兄弟やせいえいだけではなかった。
ぼくやせいえいと彼女が組んで、歌を作り、サイトを運営しているとは言っても、ぼくたちの北海道行きの件が、彼女に漏れ伝わっていることなど、ぼくらにすらわからなかったのだから、そんな彼女に驚嘆し、訝しみ、動揺する爽快兄弟の反応は当たり前のことだったと思う。

九時丁度に、定刻通り離陸した飛行機は、数分で水平飛行に入り、「ポン」という音と共に、シートベルトサインが消えた。
ANA○○便はボーイング747。
三人掛けのシートが左右にあり、センターを四人掛けのシートが締める。
ぼくらはその20番の列に横一列になって席を取っていた。
20のA(窓際)に快くん、その隣のBに爽くん、通路側の席にぼくが、そして通路を挟んで、センターのDにりおが、Eにせいえいが座ったかたちだ。
そのせいえいの隣、センターのFに美咲さんが座った。
チェックインカウンターで、そうなるようにしたらしいけど…
まったく信じがたい行動力だ。
みんな呆れて何も言えなかった。
とうの彼女は機内誌を読みながら、「へぇ、ウィーンフィルのオペラ特集なんてやってるのね。聴いちゃお♪」なんていいながら、ヘッドホンを耳にかけて、鼻歌を歌っている。
まるで、これからのことなど気にならないようだった。

快くんの不安そうなひそひそ声が聞こえる。
「ねぇ、爽。あの人って誰?あの人って、あきさんたちの知り合いなのかな…なんか、すごい行動力っていうか、明るいって言うか…ねぇ、爽。誰なのか聞いてきてよ!」
爽くんも小声で言う。
「俺がか?快が聞けよ!あきさんに…」
快くんが首をぶんぶん振って「む、無理だよ!お願い!あきさんに聞いてきてよ!おれ、女の人はやだよ…異性だもん…あの人におむつ見られるなら、おれ帰る!」
爽くんが仕方ないといった調子で、ぼくに耳打ちをしてきた。
「あきさん、あの…えと、あの人っていったい誰ですか?もしかして、あきさんの彼女ですか?」
ぼくは慌てて訂正する。「違うよ。彼女は飽くまでぼくとせいえいの音楽仲間。ホームページを手伝ってくれてるんだ。まさか、この旅のことを知っていて、着いて来ちゃうなんて…ぼくらにも予想外の出来事なんだ。」
「そうなんですか…実は快が…特に聞いていなかった上に、異性でしょ?それに、いっちゃわるいですけど、あのノリって言うか…すいません。おれ、あきさんの友達を悪く言うつもりじゃないけど、ちょっと厚かましいんじゃ…。」
最後は消え入りそうになりながら爽くんが言った。
確かにその通りだ。
彼女の行動は、少し自分本位で、厚かましいとさえ言える。
ぼくらの計画の内容もよく知りもしないのに、勝手についてくるなんて。
「わかった。彼女とはこの機内で話をつけるよ。心配しないで。悪い人じゃないから。」
そういって、ぼくは快くんと爽くんに目配せして、ベルトを外し彼女の席へ行こうと、そっちを見た。
が、F席に彼女がいない!
トイレか…
そう思って、再びベルトを締め直すと、後ろから突然声が聞こえた。
「ふーん。爽くんに快くんか…。双子の君たちはまさに爽快兄弟ってわけね。」
そういいながら、いつの間にやってきていたのか、通路を彼女が歩いてきた。
「あたしの名前は美咲蓮。れんって呼んでちょうだい。」
そう言って、彼女はぼくを挟んで二人に手を差し出した。
けれど、爽くんはともかく、快くんはすっかり彼女に怯えてしまって、ただでさえ動かない右手をさらにこわばらせ、爽くんにしがみついていた。
ぼくは二人を守ろうと思った。「れん。ちょっとまって。君は…」
「勝手すぎる?」
そう蓮がいって、微笑んだ。
「そのとおり。あたしは自分勝手で自己中心的な、迷惑女よ。勝手に噂を聞いて、勝手にあきくんのうちに電話して、勝手に同行することに決めて…だ・か・ら。あたしは最初っから君たちの予定に絡むつもりはないわ。そんな権利無いしね。泊まる先も札幌の親戚のうちに泊めてもらうことになってるの。だから、安心して。こんなパー子は北海道に着いたらすぐいなくなるから。ちょっとみんなを驚かしたかっただけなの。びっくりしたでしょう、快くん、爽くん。ゆるしてね。」
そういって、微笑む蓮は、どんなに破天荒でも、やっぱり歌声が証明するとおり、優しい女の子だった。
「快くんや、爽くんが嫌がることはしないよ。一緒にいて欲しくなければいないし。でも、折角知り合ったんだから、手の感触ぐらい感じさせてよ。」
差し出された蓮の左手を、最初に握ったのは、意外にも快くんだった。
何も言わず、そっと、蓮の掌に自分の掌を合わせると、蓮はぎゅっとそれを握った。
そして互いに無言で手を離した。
それをみて爽くんが慌てて「曳舟爽(ひきふねそう)です。はじめまして。」と手を握った。
「初めまして。爽くん。美咲蓮です。」
蓮はにっこりわらった。

「と、言うわけで、あたしはただ単に北海道観光をするだけだと思って。りおくんとせいえいくんも、あたしの気まぐれに付き合わせちゃってごめんね。」
蓮は二人を振り返ってそういった。
「あ、いや…はい。」とりお。
「全くだ。おまえってやつは、どんな神経してんだ。」せいえいが憤慨する。
「ごめんごめん。でも、もしよかったら君たちの三日目の予定には参加させて欲しいな…よかったら、連絡してね。」
じゃあね。と言って、蓮は席に戻り、ふたたびヘッドホンを聴きはじめた。
結局彼女はただ単に北海道旅行がしたくて、ぼくらの計画にちょっとだけ便乗してきたって事だったのか…。
そこで快くんの呟く声が聞こえた。
「蓮さんの手…柔らかかった。」
「ああ、優しかったよな。」爽くんも言った。
よかった。ふたりの蓮に対するわだかまりが溶けたようで、ぼくは安心した。
少し眠ろう。さきはまだ長い。

ぼくが目を閉じたその横での、双子の会話は、彼らだけの秘密。
「でもさ。はっきりいって、ただ北海道に旅行したくて、たまたま友達が行く予定を見つけたからって、同行しようとするかな?なんてゆーか…」
「うん、まるで…」
「「あきさんと一緒にいたいみたいな…」」
二人は目を合わせた。
幼い寝顔で眠っているぼくの顔を見ながら、ふふふと二人は笑った。


新千歳空港に着陸したANA○○便がエプロンに着くと、ボーディング・ブリッジがドアに密着し、空港内までの短い通路が出来る。
そこは暖房がほとんど効いていない。
ぼくたちはそこを通るとき初めて、東京と北海道の気温の差を実感した。
「うわ!さぶ!」りおがさけぶ。
爽くんと快くんも、マフラーを巻き直した。
ぼくたちは駆け足で、出口をでて、そのまま地下の駅に向かって、エスカレータを降りていった。
みどりの窓口で快速エアポートのチケットを買うと、すぐさまそれに乗り込んだ。
そこから50分ほどして、ほどなく列車は駅のコンコースにたどり着いた。

駅に降り立つと、冷えた空気が容赦なくぼくらを襲う。
「これが東京じゃもうすぐ桜も咲こうかって言う時期の気温かよ。やっぱ北海道は違うよな。」せいえいが言って、みんなが頷いた。
「西口改札の、大理石のドーナツみたいなモニュメント…行こう。そろそろ時間だ。」
ぼくは腕時計をみて、そう言った。
みんながぼくの後について、階段を下りた。
「じゃあ、あたしはここで別れるわ。連絡もらえたらうれしい。」
そう言って蓮が手を振りぼくらとは逆の東口の改札へと向かって歩いていった。
ぼくらがそれを見送りながら改札を抜けると、左手にそのモニュメントがみえる。
そして、その周りにたっている人たちの中に、ぼくは茶色い髪のつんつん頭を見つけた。
ぱんぱさん!
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