おむつの小説

コラボ小説、爽快に生きよう!青空の下で…7話
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おれはトイレへの道のりの間中「ごめんなさい…ごめんなさい…」と謝ってばかりいた。
じゅんさん…この人は一度も、”オムツ”という言葉を出さなかった、”おもらし”とも言わなかった。
そして、なにより「それはただの”水たまり”だ。」というあの言葉。
それで、おれはこの人を一気に信頼することが出来た。

そう、信頼できただけに、その人のシャツを袖を、いまもぬらし続けていることが申し訳なくて、いたたまれなくて仕方なかった。
でも、そんなことにはお構いなく、じゅんさんは雑踏をかき分け、人通りの少ないトイレに駆け込むと、その中に四人で入った。
「広いなぁ。札幌にはこんなに広い障害者用トイレがあるんだ…。」爽が感嘆して言った。
「タオルある?」
じゅんさんが聞いて、爽があわててリュックからバスタオルを差し出す。
それを簡易ベッドに敷くと、そのうえにおれを寝かせてくれた。

おれはてっきりじゅんさんがオムツを替えるんだと思っていた。
あんな言葉をかけてくれたじゅんさんだったけれど、おれはいやだった。
いくらじゅんさんでも、おれは申し訳なくて情けなくて…でも、あらがえない。
そう思うと、苦しかった。
「ごめんなさい…」
それしか言えなかった。

「だから、なんで謝ってるんだ?言っておくけど、おれは君のオムツを替えないよ。そんなの嫌だろ。爽くん。いつものように頼むよ。おれは外に出てるから、終わったら声をかけて中に入れてくれ。」
え?と言う顔で、おれも爽もじゅんさんを見てしまった。
「おれが替えると思ってたのか。別にそのつもりはないよ。ただ、あのメンバーの中で、一番早く君をあの場から移動させられるのがおれだっただけ。だから、一緒にあきくんと爽くんについてきてもらったんだ。じゃ、そういうことで。」
そういうとじゅんさんは本当に外に出て行ってしまった。
「と、とりあえず、濡れたズボンとオムツを取り替えよう。」
あきさんが言って、爽が頷き、慌ただしくおれのオムツを替えてくれた。
濡れたズボンや靴下を脱いで、たっぷりとおしっこを吸ったオムツも外される。
いつものハンカチを用意され、新しいオムツに替えられた。
さすがに室内とはいえ札幌の障害者用トイレは寒かった。
おれはぶるっと震えてしまう。
「ほら、ズボン。早く履き替えないと、風邪引いちゃうぞ。」そう言って爽が渡した新しいズボンをおれは身につけた。
それを見て、あきさんが、外にいるじゅんさんに声をかけた。

じゅんさんがトイレに入ってきた。
「どう。元通りになったか?」
そうきかれて、おれは頷いた。
おれは、じゅんさんの真意を量りかねていた。
優しい人なんだ…でも、謝るなって言われてもおれは…

「こんなところだけど、ちょっと話をしようか。」
そもそも、おれはそれが目的だし、そういってじゅんさんが腕組みをしておれに目を合わせてきた。
「なぜ、謝る。いったい、だれに謝ってたんだ?」
その口調は上からのものでも、かといってへりくだった物でもなく、ただただ静かに、問いかけるものだった。
「じゅんさん、快はそんなに喋れないんです。それに、お互い初対面で…さっきまで怖がっていた快に質問しても…」爽が不安そうに消え入りそうな声でいった。
爽がおれを守ろうとしてくれているのだ。
でも…
「もちろん、それはそうだろう。でも快くんは「ごめんなさい」とはっきり言った。言葉を喋ろうと思えば喋れる。二言三言でいい。おれの質問に答えてほしい。お願いだ。」
おれは勇気を振り絞った。
責められている訳じゃないんだ。おれの気持ちをぶつければいいんだ。
「おれ…情けなくて、恥ずかしくて、かっこわるくて…この歳になっておもらしして、じゅんさんの服まで汚しちゃって…なんだか、おれがこうして生きてること全部が申し訳なくて…だから…」
おれは言いながら涙がこみ上げてくるのを感じていた。
惨めだった。
じゅんさんはそっと口を開いた。
「ならばなおのこと。君は謝る必要なんか無い。君がおもらししてしまったことも、オムツを使っていることも当たり前の、どうしようもない事だ。だから、それで起こったことに申し訳ないなんて思う必要はないんだ。誰の性でもないんだからね。謝るんだったら自分に謝るんだな。そうやって自分を責めさいなんでばかりいる自分自身に。そんなに自分を責めるな。まぁ、だれのせいでもないから、誰の性にも出来なくて苦しい気持ちはよく分かるけどね。おれもそうだったから。」
そういって、じゅんさんは左腕をまくり上げた。
おれたちは、息をのんだ。
おびただしい数の刃傷がみみず腫れのように浮き出ていた。
「リストカット…」
あきさんが呟いた。
「躁鬱病って言ってもわからないだろうけど、精神病の一種におれはかかっている。だから、快くんの苦しい気持ちは、多少は分かるつもりだよ。みんなそうなんだ。れんれんは統合失調症、しんじはセクシャルマイノリティー、ぱんぱは溢流性尿失禁と、人とは分かち合いにくい苦しみを抱えている。あきくんもね。そんなあきくんを君が信頼しているように、おれたちも信頼してくれたらうれしい。」
そういって、じゅんさんは腕をしまった。
おれは言葉が出なかった。
謝らなくていい。
謝る必要なんて無い。
その通りだと思った。
でも、申し訳なくて、おれには言える言葉がなかっただけだ。
同じような苦しみを抱えているじゅんさんたちを信じたかった
でも、謝る以外に何が出来ただろう。
俯いておれは唇を噛んだ。
そんな様子をみてじゅんさんが一言言った。
「「ごめんなさい」って言ってもいいからさ。そのあとに「ありがとう」が言えればいいんだよ。もちろん、おれにじゃなくて爽くんにだぜ。爽くんがオムツを替えてくれたんだから。」
おれはハッと顔を上げた。
申し訳ないと思うのは簡単だけど、感謝する気持ちを忘れない。
そういうことだと悟った。
おれはゴクリとつばを飲み込み、言った。
「ありがとう、爽。ありがとう、あきさん。それから…」
おれはゆっくりとじゅんさんを見上げ、精一杯の笑顔で「ありがとう、じゅんさん!」と言った。
じゅんさんがニマーっと笑って、「いい笑顔じゃねーか。」といって、頭をポンポンとなでてくれた。
「快〜。おれ、泣きそうだよ〜。おまえ、そんなにはっきりしゃべれるんじゃん!」
爽がうるうるしながらいった。
「おれ、多分これからも苦しむと思う。でも、こんなに助けてくれる人が沢山いるなんて、本当に嬉しい。ありがとうの気持ち、わすれない。」
じゅんさんがくれた言葉を反芻しながら言った。
「よかったよかった。」
あきさんが笑って言った。
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