おむつの小説

コラボ小説、爽快に生きよう!青空の下で…第11話
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「…!…い!…快っ!」
おれははっと目を開いた。
目の前の涙目の爽がいた。
「よかったぁ。死んじゃったかと思ったぜ!快!」
そういって、爽が抱きついてきた。

ここは…
歩歌くんとかおるちゃんとおれ。
三人で入ってきた部屋に、いまはさっきのメンバー全員が集まってきていた。
「ふぅ…危なかった。」
「漏れてはいないみたいだな。」
歩歌くんとかおるちゃんも意識を取り戻したようだった。

「おれ…おれ、本当に心配したんだぜ。おまえ、なにしても全然反応なくて…あれから5時間だぞ!戻ってこれなくなったのかと思ったよぉ。」
爽はついに泣き出して、おれにもたれかかってきた。
「ごめん…でも、ちゃんと目的を果たしてきたよ。」
おれは爽の背中をなでながら言った。
爽ががばっと起き上がり「じゃあ!じゃあ、おまえ母さんと会えたのか!?会えたんだな!よかった…本当によかったな!快!」そういって、また泣いた。

「今回は結構長かったわね。あたしたちもちょっと心配しちゃったわ。」
紫織さんがかおるちゃんに向かっていった。
「例のごとくあっちでの時間の流れと、こっちの時間の流れは違いますから。あっちではほんの1時間足らずの出来事だったと思うんですけどね。」
「かんけーないって。おれの目が黒いうち…じゃなかった、青いうちは、きちんとゆぐどらさんに会わせるし、帰ってこれるに決まってるさ。」
歩歌くんはあくまであっけらかんと歌うように言う。
「おまえが言っても全然説得力がない。」
かおるちゃんがばっさり切り伏せた。
「あらあら、さっそく夫婦漫才の始まりかしら。」
ムフフといたずらっぽく笑って、紫織さんがちゃちゃをいれた。
それに呼応して、みんながあははと笑った。

「ありがとう。歩歌くん。かおるちゃん。ぱんぱさん。それに、ここまで連れてきてくれた、あきさん。本当にありがとうございます。」
涙をぬぐって爽が言った。
「ほら、快もお礼言えよ。」
そういって、爽が促す。
でもおれは、感謝の気持ちは何も言葉だけじゃないと思った。
「うん。でも、その前に、爽。おれのオムツ取り替えて。」
そう。
もうおれにとって、オムツは忌み嫌うものじゃない。
おれの尊厳を守ってくれる、日常生活を助けてくれる、大切なものだ。
そう感じられるようになった自分を見せることが、感謝の表れになると思った。
「オムツって…快、ここで替えるのか?いいのか?みんながいるのに…」
爽が小声で言った。
「別に構わないよ。みんな知り合いで、おれがオムツを必要なこと分かっていて、認めてくれているんだから、もう恥ずかしくないよ。」
「快…おまえ…」
爽はすっきりとした表情でオムツの事を話すおれにしばし呆然としていた。

「ははは、あ、ありがとう。か、快くん。き、きみの、か、感謝の、き、気持ちは、じゅ、充分、つ、伝わったよ。で、でも、ま、まぁ、き、基本的に、お、オムツの中身は、ぷ、プライベートゾーン、だ、だから、ぼ、ぼくらは、や、やっぱり、た、退散するよ。」
そういって、ぱんぱさんは部屋を出て行った。
「んじゃ、そゆことで、おれたちも隣の部屋で待ってるわ。」
じゅんさんがニマーっと笑って言った。
れんれんさんがかおるちゃんを抱えて、それに続いてみんなが出て行った。
ドアを閉めながら、歩歌くんが言い残していった。
「おれもオムツぱんぱんなんだ!なるべく早めに頼みます!つぎはおれが兄ちゃんに替えてもらうから。」

二人っきりになって、おれたちは改めて見つめ合った。
「爽、オムツお願い。もう、ぐっしょりなんだ。おむつかぶれになっちゃう。」
「うん。わかった。」
爽が、リュックから替えのオムツと一緒に、例のハンカチも取り出す。
でも、もう必要なかった。
「爽、ハンカチはいいよ。もう、恥ずかしくも悔しくもないからさ。」
「そうか…」
そういって、そうは、おれのズボンを降ろした。

オムツを替えられながら、おれたちは話をした。
「母さん元気だったか?」
「ふふふ、死んでるから…元気かどうか。でも、変わってなかったよ。」
「それもそうだな。でも本当に会えたんだな。信じられないけど、こんなに変わった快がなによりの証拠だな。」
「母さんが言ったんだ。逃げるな。向き合えって。おれ、ずっと逃げてたよ。障害からも、オムツからも…そして爽からも。ごめんな。ほんとに。ずっと自分の殻に閉じこもって。文句だけ言ってさ。それでも、いつも傍にいてくれて…だから、なによりありがとう。爽。」

オムツにぽとりと涙がこぼれた。
「ばかやろ…なにこんなに泣かせてんだよ。これじゃあ爽快兄弟じゃなくて号泣兄弟だ。おれ…おれ、おまえにそんなこと言って欲しかった訳じゃないつもりだったんだよ。でも、でも言われて初めて分かったんだ…おれ、こんなにおまえに…おまえのその言葉を聞きたかったなんて…。」
嗚咽混じりの声と、ぽたりぽたりとこぼれる涙の粒が、オムツの表面を丸い水滴になって伝う。
いまは、その流れる涙が、吸い取られてしまわないで欲しかった。
下半身オムツ姿のまま、おれは爽を抱きしめた。
「ただいま。爽。」
「お、かえり、快…。」
嗚咽は泣き声に変わり、爽がおれに身をゆだねて泣いていた。
そうだ。
こうやって、これからも涙や悲しみを二人で分かち合って、乗り越えていきたい。
おれたちは、必ず爽快兄弟に戻るんだ。


その日はすべてが終わると、もう九時を過ぎていた。
みんなお腹がぺこぺこだったけれど、寮の食堂は、九時には閉まってしまう。
「うちで食べていってもいいよ。」
紫織さんはさらりと言ったけれど、ぱんぱさん、じゅんさん、しんじさん、れんれんさん、しおりさん、あきさん、りおさん、せいえいさん、歩歌くん、夜歌くん、かおるちゃん、そいて、おれたち兄弟と、14人もの食事を小夜子さんに作ってもらうのはいかにも気が引けた。
それはぱんぱさんも思ったようで、「こ、こんな時間、ま、まで、い、家を、つ、使わせてもらっておいて、そ、そのうえ、しょ、食事まで、な、なんて、と、とんでもない。そ、外で、た、食べるよ。」とあわてて言った。
「じゃあ、あたしもそうするわ。」そういって、上着を着始めたみんなに交じって紫織さんもコートを着込んだ。

夜の札幌は一層芯まで冷えるようだった。
これだけの人数だ。
横一列など当然なれないから、自然に会話する塊が出来て、それが縦に並ぶかたちで路地を歩いた。

たとえばこんな感じに。
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