d-1 GP FINAL!

【クシャミと焼きそば(第3回入選作品)】


2005-05-31
【クシャミと焼きそば】
自宅で焼きそばを勢いよくほおばっていると、急にくしゃみが出そうになった。
口には大量の焼きそばがつまっているため、このままではテーブルや床に焼きそばが散乱することは必至・・・

クシャミが出る前に飲み込むか?・・・いや、この量は無理だ。

口を無理に閉じてクシャミをするか?・・・いや、そんなことしたら鼻から焼きそばがコンニチワすることだろう。

やばい、もう無理だ・・・

すんでのところで足元にティッシュを見つけ、すばやく数枚広げ、左手の平に置き、間もなく来る「その瞬間」に備えた。

このティッシュはあたかも野球のグローブ。
例えるならこのときの私は、三振を狙うことは諦め、「打たせて捕る」作戦に打って出ていた。

そして、「その瞬間」は来た。

「ハクショ〜イ!」

かなりの勢いで私の内側から発せられたクシャミは案の定、口の中の焼きそばともども体外に噴出されたが、焼きそばは見事左手のティッシュにキャッチされていた。

意気揚々の私はティッシュを丸め、バックホームさながらゴミ箱へと投げ捨てたのだが、何かが視界をさえぎっていることに気づき、かけていたメガネをとってみた。

焼きそばの破片がメガネについていた。

やはり無傷では済まなかったらしい。
私はちょっとした敗北感を味わいつつ、その焼きそばをふき取ろうとメガネのレンズの表面にティッシュを這わした。

しかし、なぜか焼きそばがとれない。
おかしく思い、目元にメガネを近づけてよく見てみた。
たしかに焼きそばがついていたのだが、私はそこで驚くべきことに気づいた。

焼きそばはメガネのレンズの内側についていた。

内側というのはつまり顔に面している方だ。
おそらく、焼きそばはクシャミと一緒に口から飛び出してティッシュに大半は付着したものの、この破片だけはどういうわけかティシュで跳ね返り、あたかも走り高跳びのようにメガネを飛び越えて内側のレンズに着地したのだ。

ここで焼きそばってすごいな、と感心したくもなるが、それは正しくない。
焼きそばにそんなウルトラCをやってのけさせるクシャミの爆発力こそが賞賛されるべきなのである。

食事を終え、一服し、歯を磨こうと洗面台の前に立って鏡を見た。

左の頬骨の辺りに焼きそばの破片がついていた。



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