d-1 GP FINAL!

【日差し(第4回入選作品)】


2005-09-12
【日差し】
もう9月も半ばになろうかというのに、毎日なぜこれほど暑いのか。
空の青さは夏のそれとは変わりつつあり、白さを帯びてきてはいるが、日の照りの強さにはいまだ衰えを感じない。
今朝もきれいに晴れ上がり、容赦ない日の光がアスファルトに残された夕べのにわか雨の跡を消しにかかっていた。

今日から私は遅めの夏休みをもらった。
休みの初日はのんびり寝て過ごしたいものだが、今朝はわけあって早起きし、Tシャツにジーンズ姿で最寄り駅へ向かった。
通勤時間帯である駅前は仕事へ向かう会社員たちで込み合い、9月半ばとは思えない強い日差しが彼らを照らしていた。

駅前でしきりにお辞儀をしている頭の薄い初老の男性がいた。
どうやら昨日の衆院選で当選した議員が、市民にお礼を述べているようだ。
「ありがとうございました!ありがとうございました!」
と、かすれた声で早足の通勤者たちに頭を下げる彼の姿は暑苦しいことは間違いないのだが、不思議と見る者を不快にさせるものではなく、それはそれで心に来るものがあった。

近くを通り過ぎようとした私に、彼は手を差し伸べてきた。
思わず私はその手を握り、ゴツゴツした感触に彼の人生の年輪を感じながら「おめでとうございます」と声をかけた。

その議員は「うすい日出男」という自民党の議員だ。
「名は体を表す」を地で行くような彼の頭上には、やはり9月半ばとは思えない強い日差しが照りつけていた。

私の横から初老の女性が彼に歩み寄り手をとった。
「おめでとうございます〜!私、昨日足の調子が悪くてね、投票どうしようかと思ったんだけど、やっぱりあなたに入れなきゃって思って・・・」

そんな雑談を交わす2人の頭上にも9月半ばとは思えない強い日差しが照りつけていた。

私は早足で日差しの届かない駅の構内へ入った。
投票へ行かなかった私は「おめでとうございます」と声をかけた自分を少し恥じた。



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